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ヴァイオリニスト  三戸 素子 さん (その1/3)

進化する音楽集団「クライネス・コンツェルトハウス」。チェロ奏者で指揮者の小澤洋介さんと共に主宰するこの楽団のコンサートミストレスでヴァイオリニストの三戸素子さん。ヨーロッパから帰国して楽団を組織し、所沢を本拠地として活動する思いをお聞きしました。── byゴマッジョ(Photo : Kaneharu Kuramoto) 【クライネス・コンツェルトハウスの公式サイト】

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≫≫ 演奏に熱中して自分の世界に ≪≪

ゴマッジョ(以下、ゴマ) 三戸さんは京都のお生まれとうかがいましたが、京都にはいつまで?

三戸 京都には5歳までいました。花園という今のJR線の駅の近くに家があり、お向かいは加藤泰という有名な映画監督のおうちでした。そばには、父が懇意にしていただいていた哲学者のおうちもありました。
 周囲には、仁和寺(にんなじ)や龍安寺(りょうあんじ)などがあって、当時は無料で自由に境内に出入りができて、よく父と散歩したり、どんぐりや松ぼっくり拾いなどをしたことを覚えています。

ゴマ 5歳で所沢に移ってこられ、小学校はひばりケ丘の自由学園で。

三戸 ええ、自由学園の初等部に入学しました。だけど、中学校は東久留米の公立校に行き、高校から桐朋学園の音楽科に進みました。というのも、早くから、桐朋学園の「子供のための音楽教室」に通っていましたから。

ゴマ ヴァイオリンはいつから。

三戸 5歳からです。こちらにきてすぐです。

ゴマ 始められたきっかけは。

三戸 兄がヴァイオリンをやってたんです。母がピアノを弾いていて、同じ楽器をするよりもということだったようです。
 しかし、私自身はヴァイオリンをやりたいと言った記憶はないんです。
 小さいころから音楽を聴くのとてもが好きでした。いつも家にあるレコードをかけては、曲に合わせて踊るようにして聴いていました。
 シンフォニーとかピアノソナタとか、好きなところを何度も繰り返してかけてましたね。毎日、毎日。
 
ゴマ とくに意識はせずに、いつのまにかヴァイオリンを弾くことに。

三戸 ええ、なぜそうなったのか、自分でもよくわからないんですが…。小学生のころから、“ヴァイオリン少女”とはやされてましたけど。
 ヴァイオリンに集中しているときは、一種独特の高揚感があります。
 胸が高鳴り、次はこんなふうに弾いてみようとか、インスピレーションがどんどん湧いてきて、別の世界にいるようで、その世界が広がるのを楽しんでいる感じでした。

ゴマ 早熟な感じですね。

三戸 音楽との触れ合いは最初からそんな感じで、とくに音楽の道をこころざしたという意識がなくて、そのへんは他の方とは違うと思います。

ゴマ 学生時代のエピソードなどありますか?

三戸 オーストリアに行く前のことですが、こんなことがありました。
 当時、桐朋学園のオーケストラのリハーサルで弾いていて、休憩になったとき、私のうしろで弾いていたお姉さんがやってきて、「あなた、そんなに熱演しないでよ!」と言われました。
 オーケストラはみんなが揃ってないといけないんですが、私はついその曲の中に入り込んで、こういうふうに演奏したいと思い、このハーモニーが明るくて素敵だからもっと明るく弾きたい、ここのところはとても大事だからとすごく丁寧に弾く。
 それは無意識にしているんですが、上級生からは「熱演しないで」と…。

ゴマ ある意味、自分勝手と思われた。

三戸 だと思うんです。
 だから、友だちと室内楽を組んだときも、「それは、自由すぎるからダメ」とよく言われました。

ゴマ 日本は堅苦しいのかな。

三戸 ええ、お手本みたいのがあるのだと、みんなが思っていて、その通りじゃないといけないという空気が…。

ゴマ とくに、クラシックはそうなんですかね。ジャズなんかだと、また違ってくるんじゃないかな。

三戸 それは違うと思います。ただ、共通しているところはありますね。
 ジャズの人たちは自由だけれど、やはり日本人と本場の人たちとは、持ってる引き出しの種類や数は違うかなと思います。

ゴマ 歴史とか環境とか…。

三戸 本場の人たちって、いろんなプロセスをずぅーっと経てきていて、いくつもの積み重ねがある。
 西洋で生まれた音楽、本場の人たちは、オギャーと生まれてから幼稚園、小学校、中学校、高校と音楽とともに育っていくけれど、私たちはせいぜい中学校や高校くらいから参加している感じがあります。変な例えですけど。

ゴマ おじいちゃんとかおばあちゃん、両親から語り継がれたものがあるでしょうし、教会に行ったり、いろんな音楽会に行ったり。
 日本では、音楽に対してはそういうのはあまりないですね。

三戸 そうなんです。
 本場では、生まれてきた成り立ちを全部踏まえて、その延長線上に今の音楽があるのだと感じます。

ゴマ 文化の厚みというんでしょうか。
 スポーツでも、イギリスのフットボールと日本のサッカーとでは文化の違いがありますね。

三戸 あります、あります。
 たとえば、歌舞伎で、たまに外国人が演じてすばらしい舞台がありますが、やはり、どこかしら所作が違う。

ゴマ 立ち居振る舞いが…。
 たとえば、襖(ふすま)の開け方ひとつとっても。

三戸 そうなんですよね。

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≫≫ ひとつの音に思いを込めて ≪≪

ゴマ ヴァイオリンとの付き合いは長いわけですね。
 名器というと、とかくストラディバリウスの名が出てきますが、三戸さんがいま弾いておられる楽器は?

三戸 私がいま弾いているのは、350年前に作られたヴァイオリンです。とても有名な楽器ですけど、とくに公表していません。

ゴマ どこの楽器ですか。

三戸 イタリアのクレモナのもので、ストラディバリウスの先生の製作です。パガニーニのコレクションのひとつで、彼も弾いていた楽器です。

ゴマ ヴァイオリンの超絶技巧奏者として名高いパガニーニですね。

三戸 その楽器は、私にとってはパスポートのようなものなんです。
 外国の弦楽器専門店に行って、私の楽器を見せると、そこの主人は思わず私を抱きしめて、ふだんは誰も入れない金庫のある部屋に通して、その店の自慢の楽器を見せてくれたりします。
 高価なものはいっぱいあるけれど、いい楽器というのはそんなにはないんです。ニセモノもあるし、なにかと付加価値をつけて高く売ったりする。

ゴマ 楽器を選ぶのも演奏者の力量ですね。

三戸 こんなことがありました。
 ニューヨークのカーネギー・ホールで演奏したときです。
 何度か演奏して慣れている会場だと、響きがどんなふうに反ってくるか、身体が覚えているんです。だけど、初めての会場だと、「あー、最初から弾きやすいなあ」とか、「この響きはまだ知らないな」とか思いながら演奏するんです。
 カーネギー・ホールは私にとっては初めてだったんですけど、「あれっ、私にとってこの響きは初めてだけど、この楽器は間違いなくここで演奏したことがあるな」と感じたんです。「この楽器はここの響きを知ってるんだな、このホールもこの楽器を知ってるんだな」と…。

ゴマ 前にその楽器を持っていた方が、カーネギーで弾いていた。

三戸 だと思います。
 楽器の証明書に、アメリカにあったことが書いてありました。
 その楽器は長い年月を積み重ねていて、私が死んだあとは、たぶんまたどこかの国のだれかが弾いて、新しい歴史を刻んでゆく。
 楽器との付き合い方も、ヴァイオリンの魅力のひとつですね。
 
ゴマ 改めて、ヴァイオリンの魅力を。

三戸 やっと、いまになって思うんです。ヴァイオリンでよかった、と。
 ヴァイオリンはピアノやギターと違って、単音楽器、単旋律楽器、メロディ楽器。だから、一度にいろんなハーモニーはつけられない。
 人間の声と一緒で、そのメロディだけ、その1音しか鳴っていない。その1音にどれだけのインフォメーションを込められるか、それが面白い。
 その曲のすべての音とその1音との関連性を感じながら、音の向き、タイミング、強くか弱くか、高くなのか低くなのか、ぜんぶ自分で決められる。

ゴマ 我田引水になりますが、私は10年ほど前から、学生時代からの仲間と俳句をかじっているんです。わずか17音の世界。
 ひとつの言葉を選ぶのは、他の言葉を捨てることです。千の言葉の中から選ぶか、万の中から選ぶか、いろんなバックデータの中から抽出する面白さがあります。そして、捨てた言葉の重みが、イメージをふくらませる。
 牽強付会でもありますが、三戸さんのお話に何か通ずるものが…。

三戸 それはすごくあると思うんですよ。
 モーツァルトなんかもそれに近いところがあります。

ゴマ そうなんですか。浅学ですが、モーツァルトの楽譜はすごくシンプルだと。シンプルだけど、とても豊かなイメージがあると聞きます。

三戸 ええ、ダブルシャープやダブルフラットの複雑なのとか、5/8拍子や7/8拍子などがくることもなく、ただ8分音符とか16分音符だけなのに、ものすごいインフォメーションが含まれているんです。

ゴマ やっぱり捨て方なんでしょうね。使っていない音をどれだけ響かせるかという…。
 なんだか、禅問答みたいになってしまいました。
 三戸さんのお話を、お友だちは「素子語(モトコゴ)」と称しているそうですが、それにならって、話があちこち飛ぶのも良し! と。
 では次に、オーストリアに行かれてからのお話に移りたいと思います。(2018.6.18取材)