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ヴァイオリニスト  三戸 素子 さん (その3/3)

音楽観を共有できる後継者が育ち、地元の「応援する会」の力強い支えを得て、所沢発!の音楽を。── byゴマッジョ(Photo : 演奏会写真=Mituru Okada、取材写真=Kaneharu Kuramoto) 【クライネス・コンツェルトハウスの公式サイト】

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≫≫ いよいよ所沢を本拠地として ≪≪

ゴマ 手前味噌になりますけど、私どもptoko(ピートコ)は、所沢を「音楽の街」として盛り上げたいと、7年前にスタートしました。「所沢って、どんなとこ?」と訊かれたら、「音楽の街だよ」と答えられるようになりたい。
 ウィーンはモーツァルトやベートーヴェン、シューベルトなど多くの作曲家が活躍して、「音楽の都」「楽都」とも呼ばれています。
 それにすこしでも近づけたらと野望を(笑い)もっています。

三戸 私もおおいに賛成です。
 ウィーンの人たちは、自分たちがやってる音楽が最先端なんだ、世界のトップレベルの音楽をやってるんだという気持ちをもっています。もちろん、それだけの歴史があり、プライドがある。
 だから、所沢で、最先端と思えるクリエイティブなことができるようになったらいいなと。いまやってる私たちの音楽の解釈が世界のトップレベルで、それを実現していくことができれば…。

ゴマ 所沢に行けばそれを聴くことができると…。

三戸 ようになったらすばらしい。
 私のいたザルツブルクもウィーンと同じような雰囲気の街です。
 国際的に有名なハーゲン弦楽四重奏団のメンバーは、私のモーツァルテウム音楽大学時代の同僚で、全員よく知っています。彼らは地元で練習を重ねて、新しいプログラムに挑戦し、何度も何度も地元でコンサートを開き、そして海外に出て評価を得ています。
 また、カメラータ・ザルツブルクという室内オーケストラがありますが、やはり地元で定期演奏会を何度も開いて、それから世界に出て行く。

ゴマ その街が「音楽工房」となり、音楽を醸成していくような…。
 ガラス工芸の「ガレの工房」と同じような。

三戸 そうなんです。外にあるものを買ってきて揃えるんじゃなく、本拠地の地元で作り上げて、外に投げかける。

ゴマ ドイツやオーストリア、ベルギー、スイスなどにあるようなマイスターの精神が受け継がれているんですかね。
 日本では、音楽の工房的なところはありますか?

三戸 アンサンブル金沢というレベルの高いオーケストラがあります。その主要なメンバーは外国人で、金沢市がお金を出して金沢に住んでもらい、あれだけすばらしいものになり、NHKでも取り上げられています。
 在京の交響楽団も評価は高いですが、指揮者の多くやコンサートマスターはやはり外国人が占めています。
 まだまだ、その地で育ったものではありませんね。

ゴマ それが根づいて、日本人が中心になってやるようになれば。

三戸 そうなんですよね。
 私、日本に帰ってきて、東京文化会館や東京オペラシティでやっていますけど、それは自分たちの本拠地というものではない。
 中央でやると音楽評論家が来る。新聞や雑誌にも取り上げてもらい、関東周辺からも聴きに来てくれて、ファンもできる。
 しかし、所沢でやっても評論家は来ないです。音楽雑誌も取り上げてもらえない。だけど、やはり、地元所沢の人たちの前で演奏したい。

ゴマ 3年前の15年の9月に、「松井クラシックのつどい」の25周年記念演奏会で、クライネス・コンツェルトハウス弦楽四重奏団の演奏がありましたね。残念ながら私は行けませんでした。
 そして、昨年17年の2月に「クライネス・コンツェルトハウス in 所沢ミューズ」が開催されました。オーケストラの最初の所沢公演でしたね。
 私は、音響の良さで定評のあるキューブホールで、モーツァルトの交響曲第40番を聴き、実に感動しました。活き活きとした躍動する演奏でした。ナマで聴く演奏のすばらしさを改めて実感しました。
 これはぜひ、所沢のオーケストラとして毎年開催してもらいたい、と。

三戸 所沢ではなじみがないこともあって、1回目の公演は思った以上に厳しくて、チケットは50枚ほどしかさばけませんでした。実際、かなりの持ち出しでした。で、所沢では難しいのかな、次はどうしようかなと。
 
ゴマ しかし、演奏会に来た人たち、三戸さんのお父さんの大学の教え子や所沢文化フォーラムの方たちがサポートして、「応援する会」を立ち上げましたね。「このままではいけない、こんなにすばらしいオーケストラを所沢の財産として、みんなに聴いてもらいたい」とバックアップしてくれました。
 そして、今年の2月の第2回の演奏会は完売になりましたね。

三戸 思いもかけないことでした。ほんとうにありがたいです。あんなにみなさんの拍手が心にしみたのは初めてです。
 おかげで、本拠地として所沢で続けてゆく勇気が湧いてきました。

ゴマ 所沢ミューズは今年の年末から大改修が始まり、20年の3月末まで使えなくなりました。その前にと、今年の9月8日に第3回目の演奏会を開かれますね。会場もキューブホールからマーキーホールと広くなりました。
 改修後は大ホールのアークホールで、毎年開催していただきたい。そのためにも、所沢市民の方たちにもぜひ応援をお願いしたいですね。

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≫≫ つねにいまあるものを乗り超える集団に ≪≪

三戸 実は、所沢でやる前、数年前に、もう止めようかと思う時期がありました。選りすぐった人たちとやっていても、思うような成果が出ない。リハーサルをしても、なかなかクライネスらしい純粋さが生まれない。
 だけど、3年前になりやっと、手ごたえが出てきたんです。「これはやりがいがあるぞ」と感じるようになりました。最初のリハーサルからクライネスらしさが表現できるようになりました。
 そして、改めて所沢を本拠地として活動したいと思うように。

ゴマ 所沢発として。

三戸 所沢発! せっかく、ミューズという郊外都市として珍しい大中小の立派なホールがある。市も、市長が先頭に立って「音まち、音楽のあるまちづくり」に力を入れているし、ptokoさんという味方もいるし。

ゴマ ありがとうございます(笑い)。

三戸 小澤と辛抱してやってきて、幸運もあり、クライネスらしい楽団としての基盤ができてきた。二人が引退したら、消えてしまうのかと思っていたのが、後を託せるような新しい動きが出てきました。

ゴマ 後継者が育ってきた?

三戸 ええ。後を継いでやってくれそうな人たちが…。
「活き活きと語り、歌う音楽集団」が私たちのキャッチ・フレーズですが、実際、とてもユニークなオーケストラなんです。
 チェロを弾きながら指揮をするなんて楽団は他にありませんし、私のように、「ここはこうしましょう、ああしましょう」とコンサートミストレスがいろんなことに口を出すところもありません。そういう音楽つくりは続かないのかなと思っていたのが、この人たちならやってくれると…。
 音楽の価値観を共有できる才能ある人たちと出会えてとてもうれしい。

ゴマ 楽しみですねー。

三戸 そうしたら、ますます本拠地が欲しくなってきたんです。

ゴマ お二人以外にも所沢在住の団員がおられますが、他のメンバーの方も所沢に引っ越してもらって(笑い)。
 その人たちが、さらに、三戸さんたちを乗り超えてゆくような…。

三戸 そうなんです。この人たち、私が「いいな」と思っているものを超えていってくれるかと思うとすごくハッピーなんです。
 こんなにうれしいこととは思わなかった。

ゴマ 話は尽きませんが、改めて、三戸さんにとっての音楽について。

三戸 音楽に限らず、完璧なものはないですよね。どんなことでも、先があるでしょう。「ここで終わり」というのはない。ここで完成というのはない。
 ふつうならとか、一流だったらとかとは違うところで、ずうーっと、新しいことに取り組みたい。発見のある演奏をしたい。

ゴマ 私の敬愛する政治家でかつ詩人がいます。彼が言うのは、「われわれはここまで進んできた。さあまた始めよう」。

三戸 そう。いつも、今がスタートなんですよね。同じ時間なんてない。

ゴマ また、禅問答に(笑い)。
 而今(にこん、じこん)。道元? しこうして今。
 ギリシャ哲学では、音楽は最高の芸術とされていますね。
「クラシック」は古典的というふうに使われていますが、もとの意味は「優れたもの」「最高クラス」。だから受け継がれてきた。

三戸 300年前、200年前の曲をずぅっと演奏し、時を超え、国を超え、民族を超え、いろんな人の感性に訴え、メッセージを送る。
 それができるのが音楽だと思っています。

ゴマ プリミティブでもありますよね。意識下の深いところの、もっとも柔らかい感性に訴える。

三戸 そうなんです。演奏をしていてこんな経験をすることもあります。
 コンサートで弾いていて、聴いている人が強く感じた想念が「ふっと」こちらに入ってくることがあります。「あー、この会場のあのあたりで、誰かがいま、亡くなったご主人のことを思い出しているなー」と。
 音の響きと時間と空間を共有していて、私たちより強い感覚が発せられたときにそれが伝わってくると思うんです。
 それは、どこの国に行ってもあります。アフリカでも中国でも…。

ゴマ いい演奏を聴いたとき、その曲に込められた作曲家の思いが、人々の心をゆさぶるんですね。
 先日、あるコーラス・サークルを取材したときに聞いた話が印象的でした。所沢在住の指導者のオペラ歌手が言うには、「悲しい歌は、別に悲しそうに歌わなくていいんだ。思い切って歌え。悲しい曲も明るく歌え。ちゃんと歌えば曲がそうなっているんだから、ちゃんと歌えばそれが伝わるんだ」と。

三戸 そうだと思います。楽譜にそれが込められている。

ゴマ 演奏したり、歌うことは、作曲家との対話であり、対決でもある。

三戸 うまくいかないときは、曲の中に入りそこねて乗ってゆけない。うまくいったときは、曲の中に入り込めたとき。
 そしてそこに新しいオドロキが見つかったときに最上の喜びがあります。

ゴマ 作曲家と演奏者と聴衆が一体となって新しい世界が…。

三戸 それはほんとうに不思議なんです。

ゴマ いやー、そんな世界にいる三戸さんは幸せでゼイタクですね。

三戸 けっこう、たいへんですけどね。

ゴマ だと思います。だけど、ゼイタクですよ。

三戸 よかった! 音楽家、好きです。

ゴマ 素子語の数々、ありがとうございました。
 所沢を本拠地とするオーケストラとして、「音楽の街」を象徴する集団として、市民生活を豊かにしていただくことを祈念しています。(2018.6.18取材)