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この人

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ベーシスト  山下 弘治 さん  (その2)

なにごとにも真摯に取り組む山下さん。言葉の一つひとつに人柄がにじむ。そして、いろんな可能性を見出そうとする広さ。紡ぎだす音がさらに深さを増す予感が。── by ゴマッジョ

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≫≫ ジャズの美しさを生む即興性 ≪≪

ゴマ 改めてお訊きしますが、山下さんにとってベースの魅力とは?

山下 ジャズ・バンドのなかでは、ベースは一番低い音域の楽器で、一番シンプルなところをやっています。バンドのなかのベースの魅力を考えると、野球でいうキャッチャーの面白さなんでしょうかね。
 ピアノはハーモニーをメインにしていて、ドラムはリズムがメイン。そして、サックスやトランペットのフロントはフレーズというか歌をメインとしていて、それらをジョイントしているのがベース。それが、醍醐味ですね。
 
ゴマ ベースがバンドのディレクターだというわけですね。野球では、ゲームが始まればキャッチャーが監督の役割をする。

山下 ベースに任されている部分がすごく多いですね。アソコにアレがいて、コチラにコレがいて、次はこういうふうにするから、こう進めるよって、リーダー的な立場で演奏できる。それが楽しいし、魅力ですね。
 あと、楽器の人はみんなその楽器が好きなんでしょうけど、僕はベースの音が好きなんですね。最初にお話したように、ずっとヘ音記号の世界。

ゴマ ジャズの魅力は?

山下 僕はやはり、ベースというよりはむしろジャズの魅力にひかれてやっていると思っています。ジャズの一番の魅力は創造的なところですね。
 なぜ創造的かと言うと、きわめて決まり事が少ないからなんですね。決まりが多ければ多いほど、クリエイティビティを生むのが難しくなる。

ゴマ 私がはまっているサッカーもそうですね。チーム競技のなかできわめてルールが少ない。そこにファンタスティックなプレーが生まれる。

山下 ライブのときはだいたい曲は決めてますけど、セッションでは曲もテンポもキーも決まってなくて、さて何をしようかというところから始まる。
 ピアノのトリオだと、ピアノの人がイントロを弾いて、そのポンと出した音に対して、ベースの私がどういう世界観を付け加えて行くか、どう広げてゆくか、そういった面白みがある。

ゴマ 同じ曲でも、いろいろな演奏の仕方、楽しみ方がある。

山下 全然違います。コール・アンド・レスポンス、自分がやりたいこと、他の人がやりたいことを紡ぎ合わせて、いままでにない音楽シーンを創り出す。ジャズのもつインプロビヴィゼーション、即興性の魅力ですね。

ゴマ コール・アンド・レスポンス、掛け合い演奏はたまらないですね。

山下 それがジャズの魅力の大きな要素ですね。
 だけど、そこにやはりジャズのリズムがないと…。いまはジャズも多様化していますが、ジャズの歴史や伝統はやはり脈々と流れています。
 ディキシーランドの時代から、ジャズ・バンドができて、パド・パウエル、マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーンらが活躍し、ビバップからハードバップへの流れのなかでのジャズの美しさ、それを伴ったうえでのインプロビヴィゼーションがあって、それがジャズの美しさだと思いますね。

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≫≫ スタイルを決めず、感性を磨く ≪≪

ゴマ これから、やってみたいと思っていることは何ですか?

山下 まず、自分のやっているバンド、ニューファイブにもっと力を入れたいですね。ベース、ピアノ、ドラム、トランペット、テナーサックスの5つのファイブです。
 僕が伝えたいと思っている音の世界を存分に表現する場として、さらに充実させたいと思っています。ほとんどがオリジナル曲で、他の人の曲をやるときも、全部僕がアレンジメントをしています。
 ただ、メンバーがみんな忙しいし、人数が多いので、ブッキングが大変なんです。僕は営業や店との交渉ごとは苦手なほうで。

ゴマ 雇われ店長をやっていたのにダメですか(笑い)?

山下 いやー(笑い)。いまは経済的には厳しい状況もあって、なかなか。
 できれば、継続的にどんどん活動の場を広げたいですね。

ゴマ ジャズ以外にもやってみたいことがあるそうですが?

山下 もちろんジャズがメインですが、クラシック音楽も好きなんです。で、コントラバスとピアノのデュオのコンサートをやりたなと思っています。
 ただ、クラシックのようなかしこまった会場ではなくて、普通の喫茶店やカフェのような所でやりたいなと。コンサート会場だと、酒や食事はできないし、トイレに行くのも、咳払いもできないでしょう。

ゴマ ジャズを聴きに行くと、酒はもちろん、煙草もオーケー(私は嫌ですが)。酔っ払って大きな声で騒いでいるお客もいたりする。

山下 音楽とは、コンサート会場でお行儀よく聴かなければいけないのかなと思うんですね。もっとカジュアルに、気軽に聴ける場があっていいはずだと。
 週末の天気のいい日に、ふとカフェに立ち寄る。そこは1階で外がよく見えるオープンなスペースで、隅にピアノがあって、気がつくとBGMのようにウッドベースの低い音が響いている。そんな光景を描いています。
 せっかく僕はクラシックの先生に8年間習って、弓で音を出す魅力を教えていただきましたから、それを気軽に楽しんもらえる場がほしいですね。
 曲はクラシックの小品が中心になるでしょうね。ジャズがあってもいいかもしれない。そんな場所を、何年も前から探しています。

ゴマ 演奏活動以外にも、ベースのレッスンをされていますね。始めようかなという人、行き詰まっている人などへのアドバイスがあれば。

山下 3箇所で、15人ほどに個人レッスンをしています。
 もしプロになろうと心がけている生徒だったら、楽器を扱う確固たる技術を身につけてほしいなと思いますね。
 僕は32から8年間、クラシックの先生に習うことで、自分の演奏技術について気がつくことがすごく多かったです。「目からウロコ」ですね。僕は「楽器力」と言っているんですが、これはジャズとかクラシックとかは関係ない。

ゴマ 楽器の扱い方? 楽器力?

山下 そうです。それをとにかくしっかり勉強してもらいたい。
 とくにジャズは、演奏しているとき、自分が次に何をしたいと思うか、1秒先ですらわからない。とつぜん、ひらめいたりする。
 そのときに、それを弾きたいと思ったときに、ちゃんと体がついてくるような技術、それが楽器力だと思うんです。しかも、ベースはただでさえ大きな楽器ですから、体全体を使わないと弾くことができない。
 僕は高西先生に教わって、改めて基本の大切さが身にしみました。そのことを、若い人たちにも伝えたいですね。

ゴマ ジャズとクラシックの両方を教えているんですか?

山下 いや、ジャズだけです。だけど、高西先生から教わったいろんなノウハウを組み込みながら、必要であれば弓も教えています。
 ジャズの場合は95パーセントは指ではじくピッツィカートですが、弓をやるとなると倍の努力が必要になりますね。ピッツィカートだけで十分ベースは楽しめますが、そこから先に踏みこもうとする人には、弓もちゃんと教えています。

ゴマ ところで、古代ギリシャ哲学では、音楽が最高の芸術に位置づけられていますが、山下さんの音楽観・芸術観、ひいては人生観などを。

山下 そういう位置づけはありがたいですね。
 でも、そんなに難しく考えることもないかなと思います。若手のミュージシャンには、自分をジャズ・ミュージシャンとして考えるのではなくて、音楽家として自覚をしてほしいと思っています。
 とかく、ジャズ・ミュージシャンというとちょっとヤンチャでアウトローでというイメージがある。そうじゃなくて、まず音楽家であるということ。

ゴマ たまたま、自分が好きでやってるのがジャズだと?

山下 そうそう。僕は自分のことを芸術家とは思わないんですが、音楽家ではあると思っている。芸術家かどうかは人が判断すればいいことで。
 音楽家として、音を通して、伝えたい世界を聴いてもらいたい。

ゴマ 人生観・処世訓などは? 「40にして惑わず」と言いますよね。

山下 惑いっぱなしですよ。40になったときにあれはウソだと思った(笑い)。孔子さんだから言えることで。

ゴマ 私の好きな本で、「九十にして惑う」というのがあります。
 哲学者の谷川徹三の、湯川秀樹など日本の高名な知識人たちとの対談集です。詩人の谷川俊太郎のお父さんですね。そのなかで、「人間は死ぬまで惑うんだ。九十になっても惑うんだよ。それが人間なんだよ」と。

山下 大賛成ですね。逆に惑わなくなったら、終わりだと思いますね。常にいまの自分に満足しないということだと思います。
 それと、僕がいつも思っていることは、自分のスタイルは決めない、ということです。カテゴライズして自分に枠をはめたくない。明日、自分が何をしたいと思うのかはわからない。なのに、自分はこういう人間だとは言いたくはない。
 だから、スタイルは人が決めてくださればいい。そして自分は、死ぬときに、「ああ、オレってこういうヤツだったのか」と思えればいいと。

ゴマ まだまだ、どんどん変わってゆくと。

山下 何かを感じる感性というのは年齢に関係ない。その感性に謙虚でありたいと思っています。たとえば、20代くらいの若い子がポンと音を出したときに、それを聴いて面白いと感じたときに、いままでのキャリアを捨てて「面白いネ!」と言える自分でありたいと思っています。

ゴマ 余談ですが、私は息子のライブに行って、「こちらはお金を払ってるお客だけど、前でやってる連中のほうが楽しそうだな」と思ったんです。
 それでついはずみで、ジャズ・ヴォーカルを始めてしまった(笑い)。

山下 それは、ミュージシャンの資格がある(笑い)。
 山下洋輔の言葉で、「ミュージシャンの資格は、人の演奏を聴いて、オレにもできると思うことだ」というのがある。
 僕も悲しいかな、「オレにもできる」と思っちゃった。

ゴマ 悲しくなんかないじゃないですか。どこかで響いたんですね。

山下 踊る阿呆、と言うヤツですね。自分が歩いてきた道は語ることはできるけど、これからどうなってゆくかは…。

ゴマ 楽しみでしょう。

山下 こらからまたどういう人に出会い、何を感じ、何に心をふるわせるのかはわからない。ただ、自分の感性のフィルターを通していろんなものを謙虚に受け入れながら、自分の伝えたいものを表現してゆきたい、と。
 評価はみなさんにおまかせするとして、自分がいいと思うものを、たくさんの人に共感してもらえたら、それが大きな喜びになりますね。

ゴマ そのために演奏してるんですものね。

山下 そのために、より自分を磨いてゆきたいですね。

ゴマ ありがとうございました。山下さんの音楽世界がより広がってゆくことに期待しています。また機会があれば、伴奏してください。(2011.6.1取材)